解き放たれしソフトウェア

GNU/LinuxなどFLOSSについて書いてみるつもり

Libreboot 対 FSF 騒動(FSFのトランスフォビア事件)

mag.osdn.jp

なお、Libreboot側の主張については、特定の開発者の個人的な意見をプロジェクト全体の総意のように発表しているとの批判も開発者から出ている。(前掲・OSDN)

この「批判」は、"Libreboot screwup"(Damien Zammit)。Zammit氏は Libreboot のコントリビュータの一人です( https://libreboot.org/contrib/ )。


結論としては、どちらの言い分も信用してはいけないと考えます。 そもそも、 RMS にせよ、Leah Rowe 氏にせよ、完璧な人ではありえません。 いずれもかなり賢い人だとはいえますが、完璧にはどこか抜けています。

事件の概要

さて、事件としては、FSFの職場で、トランスジェンダー当事者*1の職員が上司からハラスメントを受けていました。 そしてそれに抗議したら、「和を乱した」ということで退職させられました。 そういう話です。

Rowe@Libreboot の主張

Rowe 氏は libreboot.org で、

  • FSF にしかるべき人事部門や内部告発制度が欠けている
  • 過去にもトランスジェンダーの応募者を「外見が変だ」という理由で不採用にしていたことがある という点をさらに指摘しています。

同時に、辞めさせられたトランスジェンダー職員のことを「アウティング*2してしまって迷惑かけた云々とかわざわざ書いています。冗長でなにがなんだかわからなくなっています。

Rowe 氏はそれに加えてさらに、「なぜ GNU に参加してはいけないか」という論説まで述べています( "Why your project should never join GNU" )(ただ、こうまでなるともはや、論点が散逸してわけがわからなくなってしまっていますね)。

余談ですが、Rowe 氏もトランスジェンダー女性(MtF)当事者なのもあり、息を呑むような論説が出てきます。 例えば、ジェンダーセクシュアリティは必ずしも一致しないという話(Rowe 氏はトランスジェンダー女性だがバイセクシュアルで、女相手にしか性交渉をしたことがない、とか)。一言でいえば「シスヘテロ神話」批判ですよね。 けれども、論点から逸脱している点ではもうグダグダになってきています。

Zammit@Libreboot の話

  • Libreboot の git リポジトリのコミット権は Rowe が一人で握っている
  • Rowe は自分一人の意見をプロジェクトの総意みたいに書いている
  • 意見を挟もうにも、Rowe が勝手にドンドンと先走っていて、あまりにも速くてついていけない

FSF の主張

"Free Software Foundation statement on 2016-09-16"で、

  • Rowe 氏からの離脱宣言メール(と思われるもの)に書いてあることは真実ではないと表明しています。
  • そして、(外部向けに公開されている場である) LibrePlanet のカンファレンスでは safe space policy を定めていること、
  • FSFのミッションは「すべてのコンピュータユーザのフリーダムを防衛することである」と述べ、
  • 職員との別れ*3が差別的意図であるとの指摘は事実無根である、と主張しています。

私の所見

FSF は、トランスジェンダーを職員に雇用してダイヴァーシティ*4を拡大しようとしたものの、職場の風習や、既存職員(端的にいえば上司)の中に、トランスジェンダーに偏見がありました、と。

それで、FSF という常勤職員の少ないちっちゃい職場では、通常(の大企業)ならば行うような配転もやれない。

既存の理事や職員の中にも、偏見を偏見だと自覚していない人々が少なくない。それで、ハラスメントをやるような職員をいきおい擁護しがちな、未熟な職場でもある*5

そうしてどうなるかというと、「このトランスジェンダー職員が辛抱していられないとなると、職場を維持するためにも、この職員が生きていくためにも、お別れせざるをえませんね」、ということになったわけでしょう。 だから、 FSF としては、差別的意図はありませんという強弁になるわけです。

けれども実態として、客観的事実としては、差別です。 正しくは、周囲の職員の方に、辛抱させて慣れさせ、教育していかないといけないのですから。

こういう事態になってしまうと、ハラスメント被害当事者はその職場に居られず、退職せざるをえない状態になります(あるいは首でもくくって死ぬとか、鬱で休職するとか)。で、泣き寝入りさせられるコースです。

私の所感

RMS の「Goodbyeメール」を読んでみると、物凄く冷たいんですよね。 既存の職員を擁護する側に立っているか、少なくとも職場を維持することを優先していますね。 あと、男の立場でやはり偏見をもっているんだろうな、少なくとも無自覚には偏見をもっている*6、と私には診られます。 つまり、悪気なく差別発言している何が悪いのかを判っていない)。

それと、前掲・FSF の "Free Software Foundation statement on 2016-09-16" の

The FSF's mission is to defend the freedom of all computer users

"all" ってニュアンスがですね、"every" じゃないんですよね。 これはうがった見方ではあるとも思いますが、このニュアンスはつまり、「みんな」であって、「あなたがたひとりひとり」ではないんですよね。全体を重視して、個人を軽視している、そんなニュアンスにも読めるんですよね。「みんな」ってそういう差別的、全体主義的語彙です。

他方の Rowe が libreboot.org で書いていることは、感情的で、取り乱しています。 なによりそもそも Rowe も、トランスジェンダー女性(MtF)当事者なんですよね。 だからまあ、 FSF が改まらないかぎり徹底的に闘うでしょうし、それにFSFRMS に対して Rowe はおそらく「怖い」という感情を抱いているはず

この事件、FSF としては、個別の案件として埋没すると期待していると思います。

しかしこの事件がそれなりに広まってくると、 FSF に寄付しなくなる人が増えてきたり、 GNU を使わない人も出てくるでしょう。 そうした影響がどの程度出てくるか、私には予想がつきません。

おりしもあちらでは、トランプというホモフォビア&トランスフォビアな人がプレジデントになりましたから、風は吹いているのでしょうかね。 けど、どちらに?

この事件、実にグダグダです。 本来ならば、辞めさせられた職員自身が訴え出て紛争にした方が、こじれずスッキリします。しかし、こういうセンシティブな事件って、訴え出てわざわざ傷を広げるようなことをする人って滅多にいません。労働事件って往々にしてそういう現実があります。

*1:「当事者」というのは用語の一種みたいなもので、ここでは「本人」くらいの意味です。

*2:ここでは、秘匿せずに公表してしまったって意味

*3:"separation"、つまり、退職か解雇かというニュアンスを意図的に外しています

*4:俗にいう「多様性」(不適当訳)。正しくは「相異性」

*5:GNUの一部であるデスクトップ環境の)GNOMEでやっている Outreachy プログラムと、 FSF とを比べてみると、 FSF が後れている印象が明らかに思えます。 cf. "Outreachy | Geek Feminism Wiki | Fandom powered by Wikia"

*6:Rowehttps://libreboot.org/why-not-gnu/ の #4 に書いていますが、"Cult of the Virgin of EMACS" というパロディネタも、元ネタがクリスチャン向けでしかない点でも筋が悪いのですが、客観的にみてセクシズム(性差別)にみえますよね。言い訳も的外れ "[gnome-women] For avoidance of misunderstandings"(RMS